表現力を深めた,日本最高のテクニシャン  佐藤達哉


今から10年以上前,貧乏学生だった頃,新宿ピットインの昼の部鑑賞は私のささやかな楽しみの一つでありました。その頃,ひいきだったミュージシャンの一人に佐藤達哉さんがいました。M.ブレッカーばりのフレーズや大学のジャズ研部員が好みそうな選曲にとても親しみとあこがれを感じて,何度も足を運んだものでした。DOLPHYでのセッションは今回が初めてではないものの,自己のグループでは初登場となるそうですが,開店前からリハーサルを行うあたり,かなり力が入っているのがわかりました。

期待の一曲目はスタンダードで「Like SomeoneIn Love」でした。10年前の印象と明らかに違うのは,男性的で深みをました音色,そして表現力。かつてはフレーズのテクニカル的な部分を追うあまり,抑揚や感情移入が疎かになっていたところがあったような気がするのですが,今の佐藤さんはまるで別人のようです。また,リズムや乗り方も明らかによくなっていました。選曲のセンスの良さは相変わらずで,フュージョンの名曲,M.マエニエリの「i’mSorry」やM.ウォルドロンの隠れた名曲「OjosDeRojos」などを取り上げていました。
佐藤さんのバックを勤めるサポート陣もすばらしい演奏!!。特にベースの早川哲也さんは独特のタイム感とトリッキーなフレーズで楽しませてくれました。早川さんのベースは弾力というより粘りみたいなものがあって,バッキングに徹しているときも,存在感を強くアピールします。また,低音部から高音部への音飛びフレーズがとてもカッコ良く決まるのが印象的でした。ドラムの斎藤純さんは,セットだけをみるととてもジャズ系の人とは思えないのですが,ラテンパーカッションを交えたり,素手で叩いたりと,一歩間違えると退屈になってしまうドラムソロをすばらしい構成力でまとめ上げていました。ピアノの米田正義さんはとても堅実なタイプのピアニストで,派手気味な他のサポート陣と上手くコントラストをつけていました。ただし,PAの兼ね合いもあって,音量的に負けてしまうのが,ちょっと残念。プレー自体はとても良かったのに...

4つ刻みの曲よりも,ラテン系やアフリカ系のリズムを用いたオリジナルが中心だった2ndステージでしたが,唯一とも言えるスタンダードなバラード「BodyAndSoul」はとってもしっとり歌っていました。佐藤さんのバラード演奏はあまり記憶に無いような気がしたので,とても新鮮に思えて,私にとってはこのライブの一番の収穫になりました。
ヒイキにしているミュージシャンが益々実力をつけて,多くの場所で活躍していくのはとてもうれしいことです。佐藤さんはそのすばらしいテクニックと人柄で必ず世界でも一流と呼ばれるミュージシャンになっていくと信じています。近日中にオリジナルCDが発売されるようなので,是非チェックしてみてください。